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【前回のあらすじ】
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私の耳の横に生えている警笛が急に鳴り出してしまった為、私の耳は潰れてしまった。
その結果、私の耳は「無」が聞こえるようになる。
人は耳が聞こえないということは、文字通り何も聞こえなくなることだと認識しているようだが、実際はそうではない。
無数の、無限の、聾せんばかりの「無」が絶え間なく聞こえてくるというのが正しい。
「無」が聞こえるということは存外、悪いものではない。
私の周りは「無」で埋め尽くされていて、醜いものや汚いものが入る余地は無くなった。
電車の中でシャカシャカとイヤホンから垂れ出る不快な音、老人の痰を吐き出そうとする音、育ちの悪い者の気色の悪い咀嚼音、知能指数が低そうな童共の金切り声、エトセトラ、エトセトラ・・・。
暫くの間、私は「無」の中でストレスフリーな生活を送ることができた。
だがしかし、その生活は私を満足させることはできないのだ。
私は音楽が好きだった。特にヘヴィメタルはその最たるものである。「無」が私を支配して数日の間は特に意識することは無かったが、人は失ってから大事なものに気づくとはよく言ったものだ。私は音楽を聞いていなければ、安心ができないのだ。
マズローの欲求5段階説という、人間の欲求を5段階のピラミッドのようにして説明したものがあるが、私にとっての音楽は、マズローの欲求のピラミッドにおける一番下の生理的欲求に値しているのだろう。
「無」に支配されている間、私はピラミッドの上方の欲求を満たすことができないのだ。
自己実現の欲求なぞもってのほかで、尊厳欲求や社会的欲求すらも満たすことはできない。
私は耳を求めた。
再度醜い音が聞こえるようになってもいい。
しかしどこへ行けば耳が手に入るのであろうか。
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