S県M村(β)

S県M村のホームページへようこそ。
妄想情報 お問合せ 村政情報 利用案内
村内序列 最新発言 妄想大賞 コンテンツ募集中

トップ > 妄想トップ

129:Bad end
第3世代 作者:馬本 
いい妄想ね:3 再生数(UV):50 妄想履歴:123124
この妄想に妄想を加える(村人のみ利用可能)
※「いい妄想ね」と「妄想記憶機能」は村人のみ使用できます。


「先生…うちの子は治るんでしょうか?」
「……えぇ、絶対に私が治してみせます。」

 そういうと目の前の両親は、小さな娘につけた、眼を覆う白い布を外した。

 そこには淡く発光する、丸いものが詰まっていて、まるで複眼のようにも見える眼があった。

 光眼。それが彼女の奇病の名前。手術成功例はたったの一度。
 早速私に、治してみせますと言ってしまった後悔が押し寄せる。



 光眼とは、読みは一緒だが勿論金の玉のことではない。

 光虫という絶滅危惧種の虫が目に入り込み、光虫の卵が目の中で育っていく病だ。

 光虫はその体の中で卵を育てるのだが、卵を守るために毒素を放出する。

 育ち切ったり、卵が割れるときはもちろん、眼球を取り出すときも、しっかりと根を貼っている光虫はそれを感じ取って毒素を放出する。

 なので助けるには目を薄く切り卵を割らないように一つ一つ取っていかなければならない。取りきると光虫も毒素を出さないので、後は全て取り除けばいい。

 しかし、これが難しい。光虫の卵は割れやすく、成功例が一度しかないことから分かるだろうが、殆ど不可能だ。

 …本当にこんな難しい手術が私にできるのだろうか?
 絶対に無理だという確信がある。

 手術は十日後にまで迫った。

【追記】

「せんせい…私は本当に治るの?」
「ああ、絶対治してみせるよ。」

 嘘を積み重ねる。だが少女は薄々分かっているようで、どこか影のある笑みを浮かべた。

「私の目ってどんな感じ?」
「淡く光っていて、綺麗だ。」
「じゃあ、治さなくてもいいかも。」
「それは駄目だよ。」

 そんな他愛もない会話を繰り返していたとき、とある団体が私のもとに現れた。

「初めまして。光虫保護団体の者です。」
「はぁ…光虫保護団体さんが、何の御用で?」

 分かってはいたが、聞いてみたところ、やはり予想通りの答えだった。

「十日後の手術をしないでください。」

 光虫保護団体が言うには、少女の目に住み着く光虫は、最後の個体らしい。
 少女の目の卵から新しい個体が生まれなければ、光虫という種が滅ぶ。

 光虫の生態だとか、特性だとか、構造だとか、そんなものが色々と世界の役に立つ。

 それを光虫保護団体は一時間以上もかけて伝えてきた。

「しかし…それは、彼女を見殺しにするということです。」
「どうせ成功しませんよ。それに…ほら。謝礼としてこちらを。」

 そういって光虫保護団体が見せてきた鞄の中には、札束がぎっしりと詰まっていた。


 あの手術から2年後、私はアフリカにある最新クラスの医療機関に勤めていた。

 大量の札束と例の保護団体の言葉を聞いてその時の私は思わず激昂していた。

 患者の不安を少しでも軽くしたい自分自身の言葉とは裏腹に、手術への不安感が私の心を疲労させていたが、それでも最善を尽くしたいと思う医師としての使命感とプライドが、私の胸の中で爆発していた。

 保護団体の話を蹴った後、過去の手術例を限られた時間の中で調べ、おおよそ考えられる限りのベストを尽くした私はオペに挑み、そして失敗した。

 保護団体からは連絡は来なくなり、私の上司からもねぎらいと慰めの言葉をかけられたが、今の病院を退職し、寄生虫についてのサンプルが豊富な、アフリカにある最貧国にある医療機関に行く決意を私は固めていた。



「最近調子どう?」

 声をかけられて振り向くと同じく日本からやって来た研究員の田崎がコーヒーカップを両手に立っていた。

「大丈夫だ。」

「でも最近顔色悪いぞ? お前みたいなすげーキャリアのヤツが来たときはビックリしたけど、この前日本に帰って俺の先輩から事情を聞いたらそういうことがあったんだな。」

「その話はあまりしたくないな」

「あ、ごめんな。 この施設では誰にも話してないから安心してくれ。」

ちょっと慌てた様子で周りを確認し、田崎は私のテーブルにコーヒーカップを置いた。

「でも最近お前本当に疲れているみたいだぞ? なんか思い詰めたような顔しているし。 たまには日本に帰って息抜きにヌキヌキしてきたらどうだw?」

「そうだな、2年ぶりに帰ってみるのも悪くないかもな。」

 田崎の冗談を無視し、東京の人だかりと女の子の美しくも残酷な眼球のことを少し思い出し、あの世界最大の人口密集地帯のことを懐かしく感じていた。


 1ヶ月後の夜、東京に帰るための準備をするため、2年前に私が担当した女の子の体から取り出した光眼の卵を飲み込んだ。



 2年前の私の人生を変えたあの手術の日、私は身震いするほどの衝撃を感じていた。

 女の子の眼から死に際に眼球から飛び出し体中を動き回る眩い光。 毒が回り生気を失い透明なまでに美しく輝く白い肌。 私は自覚するよりも先に、その虫と少女の体に魅了されていた。

 虫の検体を少女の遺体から回収して家に持ち帰った時は、興奮と高揚感で体の震えが止まらず、眠ることが出来なかった。

 しばらくは少女と虫のことを考えるだけで事足りたが、それだけで満足することが私には出来なくなっていた。


 2年間、仕事をしながら得た知識を活用し、ようやく光眼の新しい卵を増やす目処がたった時の私は、あの日と同じように眠れない夜を過ごした。

 光眼は感染力の高さから、数百年前に世界中で流行したが、対策自体は比較的簡単に出来たのであっという間に数を減らしてしまった。 しかし滅んでしまったと思われる光眼を対策するのは時間が掛かり、東京に住む多くの人に感染していくことだろう。

 あの狭くも多くの人が密集する街中に、眼球から飛び出したあの美しい虫が駆け巡る姿を思い浮かべて、私は夜の暗い部屋の中で眠ることなく身震いしていた。



コメント
コメント投稿機能は村民のみ有効です。 移住する


TOP

Tweet

プライバシーポリシー | HOME | お問合わせ
copyright © since 2019-2020 suikentsukai.