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126:光眼_追記3
第4世代 作者:千歳 
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「先生…うちの子は治るんでしょうか?」
「……えぇ、絶対に私が治してみせます。」

 そういうと目の前の両親は、小さな娘につけた、眼を覆う白い布を外した。

 そこには淡く発光する、丸いものが詰まっていて、まるで複眼のようにも見える眼があった。

 光眼。それが彼女の奇病の名前。手術成功例はたったの一度。
 早速私に、治してみせますと言ってしまった後悔が押し寄せる。



 光眼とは、読みは一緒だが勿論金の玉のことではない。

 光虫という絶滅危惧種の虫が目に入り込み、光虫の卵が目の中で育っていく病だ。

 光虫はその体の中で卵を育てるのだが、卵を守るために毒素を放出する。

 育ち切ったり、卵が割れるときはもちろん、眼球を取り出すときも、しっかりと根を貼っている光虫はそれを感じ取って毒素を放出する。

 なので助けるには目を薄く切り卵を割らないように一つ一つ取っていかなければならない。取りきると光虫も毒素を出さないので、後は全て取り除けばいい。

 しかし、これが難しい。光虫の卵は割れやすく、成功例が一度しかないことから分かるだろうが、殆ど不可能だ。

 …本当にこんな難しい手術が私にできるのだろうか?
 絶対に無理だという確信がある。

 手術は十日後にまで迫った。

【追記】

「せんせい…私は本当に治るの?」
「ああ、絶対治してみせるよ。」

 嘘を積み重ねる。だが少女は薄々分かっているようで、どこか影のある笑みを浮かべた。

「私の目ってどんな感じ?」
「淡く光っていて、綺麗だ。」
「じゃあ、治さなくてもいいかも。」
「それは駄目だよ。」

 そんな他愛もない会話を繰り返していたとき、とある団体が私のもとに現れた。

「初めまして。光虫保護団体の者です。」
「はぁ…光虫保護団体さんが、何の御用で?」

 分かってはいたが、聞いてみたところ、やはり予想通りの答えだった。

「十日後の手術をしないでください。」

 光虫保護団体が言うには、少女の目に住み着く光虫は、最後の個体らしい。
 少女の目の卵から新しい個体が生まれなければ、光虫という種が滅ぶ。

 光虫の生態だとか、特性だとか、構造だとか、そんなものが色々と世界の役に立つ。

 それを光虫保護団体は一時間以上もかけて伝えてきた。

「しかし…それは、彼女を見殺しにするということです。」
「どうせ成功しませんよ。それに…ほら。謝礼としてこちらを。」

 そういって光虫保護団体が見せてきた鞄の中には、札束がぎっしりと詰まっていた。

【追記2】

 少し、考えさせてください。

 優柔不断な私にはそんなことしか言えなかった。
 別に、金のことはどうでもいい。いや、どうでも良くはないが。

 ただ、光虫保護団体が語った、光虫の使い道の一つが、忘れられないのだ。

『光虫は、もしかしたら、ありとあらゆる傷を治せるんです!』

 光虫は目に入り込む。そして、根を貼る。それは目の中を食うと言うことだ。
 遅々たる進みだが、目を食べて巣を作ることがわかっている。

 しかし、その痛みはないし、そこから死ぬこともない。
 何故そんな事が起きるのか。それは光虫が毒素だけでなく、回復薬も出せるからだそうだ。

 現物が少しだけあり、それを小さな傷につけたら一瞬で閉じたどころか、とある人物の遥か昔に欠損した腕に付けてみると、少し肉が生えてきたらしい。

 何故かは不明。しかし、確かな効果がある。

 私はそれを聞いて、死んだ母のことを思い出した。

 母は交通事故で車にはさまって、腕が千切れた。そしてそのまま出血多量で死亡。

 長い時間呻いていた母の姿は忘れることができず、未だ悪夢を見る。

 もし、そんな薬ができれば、母のような人も救われるのでは?

 少女を助けるか、見ず知らずの大勢を助けるか。

 天秤は勢い良く乗った文珍に揺さぶられ、ぐらぐらと揺れ続けていた。

【追記_3】

 答えは出ないまま、手術の日が段々と近づいてくる。
 少女とは沢山の話をした。

 例えば、算数が苦手なこと。理科は好きなこと。
 料理は得意じゃなくて、食べるのは好き。
 写真を撮ることが好きだったけど、もうできないのが少し悲しい。

 目がなくなって気味悪く思われたら嫌だから、手術が終わっても白い布をつけていること。

 少女とは沢山の約束をした。

 例えば、私が算数を教えること。私が理科を教わること。
 私が料理を作って、少女に食べさせること。
 少女の代わりに私が写真を取って、どれだけ素敵な風景か教えること。

 もし手術が終わっても、また会うこと。


 …私は、恐らく少女を見殺しにすることができない。
 少女を娘のように思ってしまったのだ。

 たとえ母のような人が減ったとしても、少女のような子供を殺すことはできない。
 少女の生を諦めることができない。

 失敗するだろう、きっと。
 それでも、最後まで諦めない。それでいいじゃないか。

 そんなときだった。

「娘の手術はしないでください。」



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