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102:成し遂げた、後(3)
第3世代 作者:異端者 
いい妄想ね:0 再生数(UV):17 妄想履歴:98101
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【1】

 男は包丁を片手にぼんやりと佇んでいた。

 目の前には、もう一人の男の死体が転がっている。その腹部は血で真っ赤に染まっていた。

 大丈夫だ。もう動かない。死んだ。俺が、殺したんだ。
 男の包丁もシャツも真っ赤だ。
 目の前の男を殺すことが、彼の唯一の「目標」だった。

 彼は小学生の頃、酷いいじめを受けて引きこもりになった。
 そのいじめのリーダー格が、目の前の死体の男だった。
 彼は生きてきた。家族からゴミのような目で見られ穀潰しと罵られながら。
 彼には目標があった。この地獄を生き延びて「復讐」を成し遂げるという。
 そのためには、あらゆることに耐えてきた。懸命な努力の結果、人目の少ない夜の間なら外出できるようにもなった。
 そして、可能な限りの手段を用いて相手の居場所(安そうなボロアパート)を特定した。

 その結果、目標は成し遂げられた。
 酔って帰ってきた相手をアパートの廊下で待ち伏せし、包丁でめった刺しにしたのだ。
 幸い相手は足取りすらおぼつかない程酔っていたので、殺すのは難しくなかった。
 こうして、彼の目標は成し遂げられた。だが――

 ――俺はこの後、どうすればいい?

 彼にはそれ以上の目標も望みも何もなかった。

【2】

「何してるの? そんな所に居たら捕まるよ!」

 不意に背後から声がかかった。
 振り返ると、買い物袋を手にした若い女性が居た。

「え? …………あ?」
「いいからこっち!」

 血まみれの包丁を手にした男のもう片方の手を取って、彼女はアパートの一室へと招き入れた。
 奇しくも、殺した男の隣の部屋だった。

「もう……いくら夜中だと言っても、あんな所に居たら捕まるわよ」

 彼女は小さな子どもを諭すように言った。
 彼は彼女に事情を全て話した。なぜそうしたのかは自分でも分からなかった。
 ずっと長い間他人と話していなかったせいか、彼の口調はたどたどしく、お世辞にも分かりやすいと言えない説明であったが、彼女は辛抱強く聞いてくれた。

「そう……でも、正直死んで良かったわ」

 ――そうでなければ、自分が殺していたかもしれない。そう彼女は続けた。
 一週間前、彼女は殺した男に無理矢理に部屋に連れ込まれ暴行された。そして、証拠の写真や動画を撮られて脅されていたのだという。
 ばらまかれたくなければ、自分の玩具になれと――古典的な手だが、昔から使われてきただけあって効果は大きい。
 彼女はのらりくらり返事を引き延ばしてきたが、それも限界にきていた。

 そこで、男が死んだ。いや、殺された。

「これで良い――って、思ったの。これで……」

 彼は返事をしなかった。どう答えたら良いのか分からなかったからだ。

 その後、彼は彼女の部屋に居続けることになった。
 彼が帰りたくないと言うと、彼女がじゃあこのまま居なさいと言ったのだ――本当にそれで終わりだった。
 翌朝、警察が彼女の部屋にも来たが、玄関で彼女が対応してくれて、彼は奥にずっと隠れていた。
 警察は昨夜の刺殺事件を調査しているようだったが、彼女は彼のことは一切言わなかったし、自分が死体を見たとも言わなかった。

 こうして、奇妙な共同生活が始まった。

【3】

 男は夜にならないと外へは出られない。
 昼間は必然的に彼女の部屋にこもりきりとなった。
 彼女は朝出かけて夜遅く帰ってくることが多かったが、彼の昼食の用意を欠かさなかった。

 彼はほとんどの時間を一人で過ごした。それを退屈だとは思わなかった。
 それでも、どこかで彼女が帰ってくるのを心待ちにしていた。
 帰ってくると一緒に他愛のない話をしながら夕食を食べた。
 その後、時折体を重ねた。
 彼の方からも彼女の方からも「好きだ」とも「愛している」とも言わなかった。「どうして?」とも「なぜ?」とも問いかけなかった。
 彼は基本的にそれ以上何もしなかった。掃除も洗濯も家事らしいことは何も。早い話が女のヒモになっているのだった。
 そんな生活が一ヶ月続いた。

 とうとう彼は「働きたい」と言った。自宅で引きこもっていた時には考えたこともないことだった。
 彼女は「別にこのままで良い」と言ってくれたが、結局深夜のコンビニのアルバイトを紹介してくれた。
 人気の少ない深夜なら、彼も出て働けると思ったのだ。
 小学校すら出ていない男の経歴は、彼女が偽造してくれた。それは確認もなしにすんなり通った。
 こうして、男は深夜の数時間だけ働くようになった。女は寝入った後に帰ってきても良いように合鍵を渡してくれた。

 しかし、彼が帰ってくると彼女は起きて待っていることが多かった。
 待っていて、他愛のない話をしながらビールを飲んで、一緒に寝た。
 それから二ヶ月、何度目かの行為の後、彼女は言った。

「私ね――癌なんだ」



コメント 名前:異端者 投稿日時:2019-07-02 22:15:04
性的な描写はぼかした方が良いかと思いましたが、酔拳さんの漫画がそうでもないようなのでそのまま書きました。近頃、村の過疎化が進んでいるようですが……。

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