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051:紫のリンゴ


私の家の庭に植えてあるリンゴの木に紫の林檎が実った。
本来リンゴの色は赤か黄色か青(青と言っても黄緑に近いが)であるはずだのに、そのリンゴは紫だった。
別に品種改良をしたリンゴというわけでもない、近所のリンゴ農家が育てているリンゴは今年も赤色だったため何らか天変地異というわけでもない。
原因は分からない。
例年通りであれば実ったリンゴは我が家の食卓に上がるわけだが、この紫のリンゴを食べてみようという気にはなかなかなれなかった。
かといってもいでおくのもなんだったので、そのまま放置することにした。
春になればあの紫のリンゴも地へ落ちる。後は自然が跡形もなくその存在を消すだけなのだ。

しかし、リンゴは消えなかった。真夏でもそこに存在し続けた。
春になり湧いてきた蟲に食べられることもなく、灼熱の夏にしおれることなく、他の草木が死にゆく秋にも姿を変えることなく。
果たしてこの紫のリンゴは何なのだろうか。
私は徐々に徐々にそのリンゴを食べてみたいと思い始めたが、そのリンゴは普通ではないことはよく認識している。
色も通常ではない、枯れない、蟲もカラスも食わない、しかしその紫が淫猥に私の食欲を刺激している。
このリンゴはかの禁断の果実、アダムの林檎なのであろうか。
しかもその果実は神話のヘビなものを必要とせず、自らの魅力で私をそそのかすのだ。
ああ、これを食べてしまったらどうなるのだろうか。
彼らは禁断の果実を食べたために「無垢」が失われたが、私は何を失うのだろう。

煩悶とした日々を過ごす。
リンゴは今日も庭から私をその蠱惑的なその存在で私を覗いてくる。


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