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044:まぐわい坂


「ああ、今日も元気にまぐわっているなあ。」

私は書斎の窓からまぐわい坂を眺めポツリ、つぶやいた。
まぐわい坂とは私の家の前にある坂の事である。
傾斜が5度ほどの緩い坂で、周りは木々や草で覆われている。
町の中心から少し離れたところにあるため、日中でも人通りは少なかった。
しかし今は、四六時中まぐわい坂には人が居る。
何故そんなことになったのか、それは坂の名前で自ずとわかるであろう。
アベックがこの坂で青姦をするのだ。
誰かが言うにはこの坂の緩やかな傾斜と草の柔らかなクッションが情事にちょうどよく、
また人通りが少ない(青姦をするカップルを除けば)ため、アベックが性交をするには
絶好の場所らしい。
朝の静かな時間なんかは喘ぎ声が坂の方からよく聞こえるときがある。
私はしょっちゅうその喘ぎ声で起こされるのだからたまったものではない、そう最初の頃は思っていたが今では目覚まし時計変わりである。

私は仕事が詰まった時はよくまぐわい坂を眺めるのだ。
人の性行為というものはアダルトビデオや雑誌で数えきれないくらい見たが、なぜだろう、
まぐわい坂での性行為はなにか私を引き付けるものがあった。
理性ある人間がまるで獣のようにまぐわっているように見えるのだ。
周りが草木しかないのがその光景を強調させているのだろうか。
理性なくした人間は私と同種では思えないように見えて、そう、まるで動物園で動物たちが交尾しているのを
不思議そうに見ている子供のような感情を私は抱いていた。

また時たま、理性ある人間の人間模様を垣間見るときも楽しい。
昨日は別の男とまぐわっていた女性がその翌日には違う男と青姦をしていた。
ああ、あの女は股が緩いのだな。まるで本当の動物の様だと、私は名も知らぬその女を批評したりした。
その翌日、女はまた別の男とまぐわっていたが右目に大きな痣を作っていた。
はて、あの女は何者なのだろうか。と突如出現したミステリに頭を悩ませた。


さて私はまぐわい坂の情事を好意的に見ているが、周りの住人はどうなのであろうか。
私の直感では9割近くは好意的なのではないだろうか、少なくとも男は10割だろうと思う。
まず青少年にとっては河原に落ちている成人雑誌より刺激的なものが坂で見ることができるのだ。
時々、アベックの男の方が情事をのぞき見していた少年に気づき、大声で怒鳴りつける声が坂から聞こえてくる。
ああ、私も少年時代にこのような坂が近所にあってくれれば、と思う。

そして女も実はまぐわい坂の事を嫌ってはいない、むしろ好意的だ。
まぐわい坂が有名になるにつれていろんなところからアベックがこの周辺に来るのだ。
そのため、この近辺の商店の売り上げが爆発的に上がったらしい。
家計の収入が増えたため、女どもは厳しい家計のやりくりから解放されたのだ。
近所の商店の老婆、かく語りき。
「まぐわい坂のおかげで売り上げが上がったのよ。」
そんな具合で近所のみんなはまぐわい坂を好いていた。
もともとの坂の名前なんかはもう誰もが忘れてしまった、むしろまぐわい坂のままでいいのだ。


そんなある日の夜のことだった。私が机で作業をしているとまぐわい坂の方から悲鳴が聞こえた。
野太く猛々しい悲鳴だったから、私はまず悲鳴の主は男だろうと推測をした。
なんだろう、と私は窓を開けまぐわい坂の方を眺めた。
すると血に塗れた刃物を持った女が裸で坂を駆け下りていくではないか。
ああ、痴情の縺れで女が男を刺したのかな?と思った。
何故か私は警察へ通報する気が起きなかった。
アダルトビデオに出ている女優がテレビの向こうにいる人に助けを求めている、それを見ているようで、
あたかも演技のようにしか思えなかったためである。
ふと近所の家々を見ていたらみんな同じように棒立ちでまぐわい坂を見ていた。
そしてしばらく経つと窓をしめ電気を消した。誰も警察に通報していないようである。
男はいつも女に肉棒を刺しているのだから、たまには女に刃物を刺されるのもいいんじゃないかい?
と不謹慎なことを考えつつ、私も眠りにつくことにした。

翌朝、まぐわい坂を見ると警察が来ていた。群がっていた野次馬の話を聞くとやはり坂で男が死んでいたらしい。
私はそれを知っても特に思うことなく、書斎に戻って仕事の続きをしようと思った。
まぐわいというのは生命を作り出す神聖な行為である。
そして、その名が冠された坂で1つの生命が消えていった。
私はそれを滑稽に思い、一人書斎の上でクスリと笑ったのだった。


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